9th
障害を持つ人間は、何かの分野で極端に秀でた人が多いというが、彼女の場合がまさにそれだ。
「あなたは料理の天才ですね」
ある日、S子さんと一緒にベランダに佇んでいた彼女に声をかけてみたことがある。
彼女はいきおい真っ赤な顔になって、あ~、あ~、う~、ともじもじシャイになってS子さんの背後に隠れ、それから「きゃああっ」と乙女のような悲鳴をあげてキッチンの方に逃げて行った。
「知らない人に話しかけられると怖いのよ。褒められたりすると、余計にね」
S子さんに言われて、そうだったのか。と思っていると、ルーシーがいきなりベランダに駆け戻ってきた。
「あんた本当は私の料理のこと嫌いなんだろ。それならそれとはっきり言え、この(F)偽善者! (F)嘘つき! (F)OFF!」
彼女は血相を変えてそう言い、そばのテーブルの上にあったグラスをわたしに向かって投げようとした。S子さんがとっさに彼女の手を掴んだので危機は免れたが、ルーシーは仁王立ちしてぷるぷる震えながら、物凄い憎悪のみなぎる眼差しでこちらを睨んでいる。
褒めたのに激怒されるって、なんで?
と思ったが、当該施設に出入りしている人々には常識がまかり通らぬことが多いので、とりあえず謝罪すれば気分がよくなるかな。というまことに日本人的な姿勢で、
「何か気に障ることを言ったのなら、ソーリー」
と言うと、ルーシーは
「ふん、この腐れビッチ」
と吐き捨てるように言って、炊事場のほうに戻って行った。
女は自由にセックスをし、自分がいいと思う相手に気軽に股を開いていいんです。男がうじゃうじゃいる空間に行くということは、「そういう期待」をする、ということだって、あるんです。それがなにか? いけないことですか? なんですか? 自己防衛? なぜ私たちが? 自分のチンコ一つコントロールできずに男性ホルモンに支配されている男こそ、まず自身のホルモンからの自己防衛を心がけるべきでしょ? ミニスカート大賛成。胸見せる格好大好き。肉食系女子万歳。男を挑発上等。だけど、したくないことは、したくない。そんな簡単な理屈がなぜこうも通らないんでしょう。
「おもしろいことになってるぞ」
京都教育大学のコンパで。何人かの学生が次々にそう呼ばれて、事件現場に行き、男たちが女性一人を強姦するのをみていたという。次の日、被害にあった女性は大学に行き、そしてまたコンパにも行ったと、そしてそれが「合意の証拠」であったかのようにブログで書いた学生がいたという。(しかも、これは事実ではない。大学は翌日入試で一般学生の立ち入りを禁止していたのだから。)
車に乗っていて、わざと幅寄せされ車を傷つけられた被害者が、次の日車に乗ったからといって責められるだろうか。銀行強盗にあいピストルをつきつけられた銀行職員が、次の日も通常通り働きに行ったら責められるのだろうか。大学に行けないほど傷つき、一生、男と一緒の席でお酒を飲めない被害者が「正しい」被害者の姿だとでもいうんだろうか。たとえば強姦された日に、もし他の男と、自分がしたいと思った男とセックスしたとしたら、彼女が受けた被害は”なかったこと”になるのだろうか。